〜サシバのすめる森づくり〜豊田市自然観察の森

■減少するサシバ
◆資料コーナー その1

 サシバは、里山環境に普通に生息していた夏鳥のタカの仲間ですが、2006年に環境省のレッドリスト改定で、絶滅危惧U類に選定されるなど急激な減少が心配されています。(公財)日本野鳥の会などが2007年にアンケートによるサシバの全国繁殖状況調査を行ないました。その結果からも東北地方、九州などの一部は、変化が無いという回答があったものの愛知県含め他の地域では減少したとの結果がほとんどでした(日本野鳥の会他 2008)。

■豊田市自然観察の森での里山保全計画

 豊田市自然観察の森は、環境庁(当時)の承認により自然保護学習推進の拠点施設として設置され、1990年4月に開館しました。面積は、28.8haありコナラ、アベマキを主体とした落葉広葉樹やツブラジイなどの常緑広葉樹、スギ・ヒノキの人工林、水田や休耕田の湿地、ため池など多様な環境があります。
豊田市営の施設ですが、現在は指定管理者として(公財)日本野鳥の会が管理運営をしています。
 自然観察の森の周辺には、良好な里山環境が広がっており、ここを守るために豊田市は、地主と賃貸契約を結び保全する事業を2003年度からスタートしました。面積は、124.5haあり、そのうち約90%が地主と協定が結ばれています。これによりあわせて、153.3haが管理地域となりました。そして、この事業にあわせて里山保全計画を立てました。まずは鳥類を始め生物相の調査を行い、その中から保全目標種を決めました。鳥類では、オオタカ、ハチクマなども記録されましたが、カエル、ヘビ、昆虫類を主な餌とするサシバは、生きものが豊富な里山環境が残っていないと生息できないので、保全目標種としました。

■サシバのすめる森づくり

 キャッチフレーズは、「サシバのすめる森づくり」です。2004年に自然観察の森周辺地域でつがいと思われる2羽を観察しました。サシバは、「ピックイー」と独特の大きな声で鳴くのですが、その時も声を聞くことができました。その場所の多くは、休耕田になっていましたが、水田が一部残っており繁殖をしていたようです。ところが翌年訪れたときは、その水田は放棄され水は無く何度か観察に行きましたが1度もサシバを見ることができませんでした。
 そこで、サシバの餌であるカエルやヘビを増やすために地主さんの了解を得て、休耕田に水を張りカエルの産卵場所作りを始めました。2004年度は、ヨシの湿地2,183u、2005年度は新池周辺休耕田3,148uとカエルの谷休耕田2,403u、2006年度はカエルの谷休耕田に2,497uの水張り休耕田を追加し、2009年度には、古瀬間の水田地帯の休耕田2,700u加え合計12,931u整備しました。その結果2006年には、4月にマムシを食べていた個体や6月と7月にも数回観察されました。2005年に一度も観察されなかったサシバが、休耕田の環境整備で復活したようです。ただし、餌場として一部利用しているだけのようで営巣確認はできませんでした。
水張り水田によるサシバの餌量の変化を知る指標のひとつとしてニホンアカガエルの卵塊を数えることにしました。卵塊の合計では、2004年は727個、2005年は645個、2006年は1,223個、2007年は2,777個、2008年は1,528個、2009年は3,404個であり増加傾向にあります。
 なお、カエル類の卵塊調査をはじめサシバに関する調査は、名城大学の橋本啓史助教を中心に行なっています。また、岩手大学の東淳樹氏やNPO法人バードリサーチの植田睦之氏らには、共同研究者として様々なアドバイス等をいただいています。

■サシバの好む生息環境

 サシバの行動圏は約100〜200haで、水田と森林の接する長さが長い環境を好むことが知られています。千葉県佐倉市の谷津環境を見学しましたが、谷津田と斜面林の境界を含むように細長い形状をしていました。ひとつの谷津田の面積が大きいので、そこだけで生息が可能なようです。しかし、豊田市の谷津環境は、規模が小さくいくつかの谷津田をまたぐかたちで利用しています。地域が変わるとサシバの谷津田の利用にも変化があるようです。
 育雛の初期、中期(6月中旬)頃までは、谷津田を採食地として頻繁に利用します。その際、草丈が高いとサシバが採食地として利用することができません。そこで、自然観察の森では、豊田野鳥友の会のメンバーや豊田市シルバー人材センターらによって草刈を行なっています。
 育雛中期(6月中旬)から巣立期(7月上旬)を経て秋の渡りが始まるまで、採食地が谷津田から森林に移行し、バッタ類、ガの幼虫等の昆虫類の採食割合が増加します。そのため、サシバの保全には、人工林の間伐等生物多様性の高い森にすることが大切です。自然観察の森では、今までも人工林の間伐などをしてきましたが、2008年11月には、かつてサシバが繁殖していた谷でサシバの餌環境の改善を目的にヒノキ林6429平方メートルの間伐を行ないました。


■全国でのサシバ復元の取り組み

 千葉県佐倉市にある畔田谷津では、市の環境保全課が事務局となり、市民参加の畔田谷津ワークショップというグループが生物調査や里山管理を始めています。その調査でサシバの生息が確認されたので、2009年度はサシバの繁殖調査を含めサシバの生息できる里山公園が計画されています。
 神奈川県では、日本野鳥の会神奈川支部を中心に小田原市でかつて繁殖していた休耕田を復元し、サシバを呼び戻そうという活動が2009年からスタートしています。
 このように各地でサシバ保全の取り組みが始まろうとしています。

■今後の展望

 「サシバのすめる森づくり」事業は、自然観察の森に関わる行政、NGO、ボランティア、研究者など様々なセクターの方が、(公財)日本野鳥の会のレンジャーのコーディネートのもとに行なっています。
自然観察の森では、今までは休耕田での水張り作業が中心でしたが、今後は農家の方々に協力を求め水田での冬水田んぼの実施を検討しています。また、サシバの生息調査や生息予測モデル作りなども進めています。
 サシバがもう一度自然観察の森で繁殖することを夢見て調査活動や環境管理作業を進めています。
 また、2007年には、豊田市で劇団シンデレラによる「2007SORA〜ぼくは野鳥のレンジャーだ〜」と題するサシバの保全をテーマとしたミュージカル公演を行ないました。こうした市民への広報活動も大切なことと思っています。

(出典:「森林の夏鳥保護管理マニュアルの検討 生息地からの発信 森林の夏鳥を守ろう!」(社)生態系トラスト協会刊)
 

◆資料コーナー その2